Logistic回帰

概要

適用対象となる問題

ロジスティック回帰(Logistic regression)は「回帰」という名称だが、その機能は2クラス分類である。複数の特徴量に対して、2つのクラス1/0の何れになるかを判定する。

たとえば旅行会社の会員顧客20人の年齢と、温泉(SPA)とレジャーランド(LSR)のどちらを選んだかというデータが以下のように得られているとき、新たな顧客にどちらを勧めればよいか、といったような問題。

上のデータの”is SPA”列は、温泉を選んだ場合に1、レジャーランドを選んだ場合に0としている。これを散布図にすると以下の通り。

年齢が高いほど温泉を選ぶ傾向があるのは分かるが、「年齢が与えられたときに温泉とレジャーランドのどちらを選ぶか」というモデルを導出するのが目的。

(1)    \begin{equation*} (x_1, \ldots, x_m) \rightarrow \left \{ \begin{array}{cc} 1 \\ 0 \end{array} \right. \end{equation*}

モデルを線形モデルとし、特徴量の線形和の値によってクラス1/0の何れになるかが決まるとすると

(2)    \begin{equation*} b + w_1  x_1 + \cdots + w_m x_m \rightarrow \left \{ \begin{array}{cc} 1 \\ 0 \end{array} \right. \end{equation*}

線形回帰による場合

ここでそのままデータに対して線形回帰を適用して、たとえば回帰式の値0.5に対する年齢を境にして温泉とレジャーランドを判定してもよさそうに見える。ただ、この時の回帰式がデータに対してどのような意味を持つのかが定かではない。

確率分布の仮定

単純な線形回帰ではなく、特徴量の線形和に対してクラス1となる確率分布を考える。

(3)    \begin{align*} \Pr (y=1) &= f(z) = f( b + w_1  x_1 + \cdots + w_m x_m ) \\ f(0) &= 0.5 \end{align*}

このときの確率分布の関数形として以下が必要となる。

  • xの(−∞, +∞)の範囲に対して、値が(0, 1)となる
  • xが小さい→確率が0に近くなる→クラス0と判別されやすくなる
  • xが大きい→確率が1に近くなる→クラス1と判別されやすくなる

これをグラフにすると、以下のような形になる。

このような関数の回帰によるクラス分類は、確率分布に用いる関数形からLogistic回帰と呼ばれている。

Logistic回帰の定式化

確率分布関数の仮定

説明変数がx_1, \ldots, x_mであり、それに対してある事象が発生する/発生しないの2通りがあるとする。

いま、i=1, \ldots, nの観察対象についてx_{i1}, \ldots, x_{im}のデータが観測されたとする。このとき、以下のように定式化する。

(4)    \begin{align*} & z_i = b + w_1 x_{i1} + \cdots + w_m x_{im} = b + {\boldsymbol a}{\boldsymbol x} \\ & y_i = \left\{ \begin{array}{cl} 1 & \textrm{(occured)}\\ 0 & \textrm{(not occured)} \end{array} \right. \\ & \Pr (y=1) = p = \frac{1}{1 + e^{- ( b + {\boldsymbol w}{\boldsymbol x} ) }} \end{align*}

x_{ij} \; (j=1, \ldots, m)が得られたとき、その多項式を使った確率によって事象が発生することを意味している。この確率分布の式はLogistic関数と呼ばれる。

ロジスティック関数(logistic function)はシグモイド関数(sigmoid function)とも呼ばれ、その値は(0, 1)の間にあることから確率分布として採用している。

(5)    \begin{equation*} {\rm logistic} (t) = \sigma (t) = \frac{1}{1 + e^{-t}} = p \end{equation*}

 

なお、ロジスティック関数の逆関数はロジット関数(logit function)と呼ばれる。

(6)    \begin{equation*} {\rm logit} (p) =  \ln \frac{p}{1 - p} = t \end{equation*}

ここでLogit関数の対数の中はオッズの形になっている。

最尤推定

x_{ij} (i=1, \ldots , n)のm×n個の説明変数データと、y_i (1 \; \textrm{or} \; 0)のターゲットデータが得られたとする。

このとき、ターゲットデータが得られたパターンとなる確率は、それぞれが独立事象であるとすれば確率の積になるから、

(7)    \begin{equation*} L &= \prod_{i=1}^n \Pr (y_i = 1) ^{y_i} \Pr (y_i = 0) ^{1 - y_i} \end{equation*}

この確率は、パラメーターb , w_1, \ldots, w_mに対する尤度関数であり、その対数尤度関数は以下のようになる。

(8)    \begin{align*} \ln L &= \sum_{i=1}^n \left( y_i \ln \Pr(y_i = 1) + (1 - y_i) \ln \Pr(y_i = 0) \right) \\ &= \sum_{i=1}^n \left( y_i \ln \Pr(y_i = 1) + (1 - y_i) \ln \left(1 - \Pr(y_i = 1) \right) \right) \\ \end{align*}

ここで、

(9)    \begin{align*} \ln \left( 1 - \Pr(y_i = 1) \right) &= \ln \left(1 - \frac{1}{1 - e^{-(b + {\boldsymbol w}{\boldsymbol x})}} \right) \\ &= \ln \frac{e^{-(b + {\boldsymbol w}{\boldsymbol x})}}{1 + e^{-(b + {\boldsymbol a}{\boldsymbol x})}} \\ &= \ln e^{-(b + {\boldsymbol w}{\boldsymbol x})} + \ln \Pr (y_i = 1 ) \\ &= -b - {\boldsymbol w}{\boldsymbol x} + \ln \Pr (y_i = 1 ) \end{align*}

これを使って、対数尤度関数は以下のように変形される。

(10)    \begin{align*} \ln L &= \sum_{i=1}^n \left( y_i \ln \Pr(y_i = 1) + (1 - y_i) \left( -b - {\boldsymbol w}{\boldsymbol x} + \ln \Pr (y_i = 1 ) \right) \right) \\ &= \sum_{i=1}^n \left( \ln \Pr (y_i = 1 ) + (1 - y_i) (-b - {\boldsymbol w}{\boldsymbol x}) \right) \\ &= \sum_{i=1}^n \left( \ln \frac{1}{1 + e^{-(b + {\boldsymbol w}{\boldsymbol x})}} + (1 - y_i) (-b - {\boldsymbol w}{\boldsymbol x}) \right) \\ &= \sum_{i=1}^n \left( -\ln \left( 1 + e^{-(b + {\boldsymbol w}{\boldsymbol x})} \right) + (1 - y_i) (-b - {\boldsymbol w}{\boldsymbol x}) \right) \\ \end{align*}

得られたデータに対してこの対数尤度を最大とするような{\boldsymbol w}を求めるのには、通常数値計算が用いられる。

1変数の場合

定式化

線形表現は以下のようになる。

(11)    \begin{equation*} z = b + w x \end{equation*}

ロジスティック関数による確率表現は

(12)    \begin{equation*} \Pr (y=1) = p = \frac{1}{1 + e^{-(b + w x)}} \end{equation*}

nこのデータセット(x_i, y_i)が与えられたとき、この確率分布に関する尤度関数は

(13)    \begin{equation*} L(b, w) = \prod_{i=1}^n \left( \frac{1}{1 + e^{-(b + wx_i)}} \right)^{y_i} + \left( 1 - \frac{1}{1 + e^{-(b + wx_i)}} \right)^{1 - y_i} \end{equation*}

その対数尤度関数は

(14)    \begin{equation*} \ln L(b, w) &=& \sum_{i=1}^{n} \left( y_i \ln \frac{1}{1 + e^{-b - w x_i}} + (1 - y_i) \ln \left( 1 - \frac{1}{1 + e^{-b - w x_i}} \right) \right) \end{equation*}

ここでデータセット(xi, yi)として、が与えられたとき、対数尤度を最大とするようなb, wを計算する。

LogisticRegressionモデル

温泉のデータセットに対して、scikit-learnのLogisticRegressionモデルを適用した結果が冒頭のグラフで、コードは以下の通り。

LogisticRegressionのコンストラクターの引数としてsolver='lbfgs'を指定しているが、2020年4月時点ではこれを指定しないと警告が出るため。収束アルゴリズムにはいくつかの種類があって、データサイズや複数クラス分類・1対他分類の別などによって使い分けるようだ。

また、同じデータセットについてExcelで解いた例はこちら

正則化

LogisticeRegressionモデルのコンストラクターの引数Cは正則化の強さを正の実数で指定する。大きな値を設定するほど正則化が弱く、小さくするほど正則化が効いてくる。

温泉のデータセットに対してC変化させてみたところ、1000あたりから上はほとんど関数形が変わらず、ほぼ正則化がない状態。デフォルトのC=1(赤い線)は結構強い正則化のように思える。

興味深いのはこれらのグラフがほぼ1点で交わっており、その点での確率が0.6近いことである。温泉かレジャーランドかを選ぶ年齢と確率が正則化の程度に寄らず一定だということになるが、これが何を意味しているか、今のところよくわからない。

一方で、確率0.5に相当する年齢は正則化を強めていくにしたがって低くなっていて、これを判定基準とするとC=0.001ではほぼ全年齢で温泉が選択されることになってしまう。

さらにCが更に小さい値になると、確率曲線はどんどんなだらかになっていき、C=1e-6では全年齢にわたって0.5、すなわち温泉、レジャーランドのいずれを選ぶかは年齢に関わらず1/2の賭けのようになっている。

2変数の場合

2変数の例として、”O’REILLYの”Pythonではじめる機械学習”にあるforgeデータの例をトレースしたものをまとめた。

Logistic回帰~forgeデータ~Pythonではじめる機械学習より

特徴量の係数

式(4)によるとziの値が大きいほどy = 1となる確率が高くなり、小さいほどy = 0となる確率が高くなる。また、特徴量xi ≥ 0とすると、係数wiが正のときにはziを増加させる効果、負の時にはziを減少させる効果がある。y = 0, 1にターゲット0, 1が割り当てられ、それらがクラス0、クラス1を表すとすると、係数が正のときにはその特徴量の増加がクラス1を選択する方向に働き、係数が負の時にはクラス0をを選択する方向に働く。

以下は特徴量数2、クラス数2の簡単な例で、Feature-0は係数が正なのでクラス0を選択する確率を高め、Feature-1の係数は係数が負なのでクラス1を選択する確率を高める。

 

Logistic回帰~1変数・Excelによる解

例題のデータ

ある旅行会社の会員顧客20人の年齢と、温泉(SPA)とレジャーランド(LSR)のどちらを選んだかというデータが以下のように得られているとき、新たな顧客にどちらを勧めればより適切か。

このようなクラス分けの問題にLogistic回帰を使うのにPythonのパッケージなどによる方法もあるが、ここではExcelを使った方法を示す。

その流れは、各観光客の選択結果のカテゴリー変数と年齢から個別の尤度と合計の尤度の計算式を定義し、切片と係数の初期値を設定しておいてから、尤度が最大となるような切片・係数を求めるためにExcelのソルバーを使う。

元となるデータは、各観光客の年齢と、行先に選んだのが温泉(SPA)かレジャーランドか(LSR)の別、それらに対して温泉を選んだ場合は1、レジャーランドを選んだ場合は0となるカテゴリー変数。

計算表の準備

このデータから以下のような表を作る。各セルの意味と内容は以下の通り。

  • coef:線形式の切片Aと係数Bの初期値としてそれぞれ0をセットし、収束計算の結果が入る
  • intercept:切片の計算のために使われるデータで、全て固定値の1
  • prob:coefがA, Bの値の時に各顧客の年齢に対してis_spa=1となる確率で、Logistic関数の計算値
    • セルの内容は計算式で=1/(1+EXP(-$A*Y-$B*Z))
    • $A, $Bは固定座標を表し、全てのデータに対してこれらのセルの内容を使う
  • LH:is_spaの値に対する尤度(likelihood)
    • セルの内容は計算式でX*LN(C)+(1-X)*LN(1-C)
  • MLE:全データのLHの和で、このデータセットのパターンに対する最大尤度の結果が入る

収束計算

データタブの一番右にあるソルバーに入る(ない場合はファイル→オプション→アドイン→設定からソルバーアドインにチェックを入れる)。

ソルバーのパラメーター設定ダイアログで、

  • 目的セルを上記のDで選択
  • 変数セルを上記のA:Bの範囲で選択。
  • 目標値は「最大値」を選択

「解決」ボタンを押して収束計算すると、Dの値を最大化するA:Bの内容がセットされる。

この場合の結果は以下の通り

  • coef:-13.6562, 0.234647
  • MLE:-7.45298

確率0.5(線形式の値が0)を温泉とレジャーランドの閾値とするなら、それに相当する年齢は以下のように計算される。

(1)    \begin{equation*} -13.6562 + 0.234647 \times x = 0 \quad \rightarrow \quad x = \frac{13.6562 }{0.234647 } =58.2 \end{equation*}

Pythonのscikit-learnのLogisticRegressionモデルを同じデータに適用した結果(C=1e5)は以下の通りで、かなり近い値となっている。

  • intercept_ = [-13.38993211]
  • coefficient_ = [0.23015561]

得られた係数の値を使って、以下の関数式のグラフを描いてみたのが以下の図でLogistic曲線が現れている。